恋愛ごっこ 続き

退職まであと25日

仕事納まった。長くて辛い年末だった。朝からクレーム処理をして、提出物を間違えるなどしたため上司からめちゃくちゃ怒られた。

インテリアの小売りで、しかも半分がオーダー品のくせに、大晦日はやたらと来店が多かったりする。店は18時までだけど、家のことがあるからとパートのおばちゃんたちが17時に帰りたがっていて、仕方ないので休みの部下を夕方から呼ぶことにしていた。年末の閉店作業は結構作業量が多い。部下は休日出勤に嫌な顔せず「じゃあ酒でも飲みながら作業しましょう」と言ってくれた。

開店してみると、例年と比べて全く忙しくなく、作業量もほとんどないことに気付いた。正直部下に来てもらわなくても本気を出せばなんとかなるとは思ったが、今日は絶対に会いたかったので、来なくて大丈夫ですとは言わなかった。口にはしないけど、お互いこの数週間で伏線を張りに張ってきたので、なんとなく分かる。今日間違いなく男女の一線を超えるつもりだ。そもそも部下は、酒は飲めるけどこの半年酒を飲んでいないらしい。その部下が自ら酒を飲もうと誘ってくるということは、そういうことと捉えて差し支えないはずだ。あと、ここ最近のボディタッチの量から考えると、決して私の勘違いではない。

店に着くなり部下が「家族(母と妹と兄2人(血が繋がってない))と家(彼の一人暮らしの2DK)ですき焼きするから早く帰りたい」などと言い、私は「明日から食べるものがないから21時までやってる成城石井に行きたい」などと言い合う。仕事を着々こなした。17時以降ほとんど来店がなく、仕事の合間にYahoo!ニュースを見たりした。東京の感染者1300人超えとあり、口先だけで2021年を憂いたりした。5月ごろは職場でもソーシャルディスタンスを気にしたり、消毒を念入りにやったりしていたが、最近はもうそこまで徹底してやってはいない。なんかもう、なるようにしかならないと思えてきている。

結局、売り上げ傾向の分析のレポートとか、頭を使う作業ばかり残ってしまったので、酒を飲みながら仕事はできなかった。全部終えたのが20時で、そのあとようやく休憩室で一缶開けた。酒が回った部下が「スイッチを持っているなら米を作るべきですよ」とサクナヒメを激推ししてきた。やっぱりあんまり酒には強くないようだった。そのあと何かの折で部下が立ち上がり、いつもみたいに私がパイプ椅子に座って、後ろから抱かれる形で取り止めもない話を続けた。いつ唇が触れてもおかしくないのに、そういうときいつも照れて、全然違う話ばかりしてしまう。そして、それまでどちらかが喋っていたのに、いざ唇が触れると急にあたりが静かになって、余計照れる。いつものタバコの匂いがしなかった。この日、部下が全然タバコを吸っていないことに、私は気付いていた。

「濃厚接触だ」と最初のキスのあと、部下が言った。それ、私が2020年のうちに一度は言ってみたいセリフだったんだけどな。

「罹ったら2人ともおしまいですよ。この店も閉店です。でももう、仕方なくないですか」と私は言った。こうなってしまうともう、私は上司ではなく27歳の女で、部下は私の4つ上の男の人だった。彼の手つきは、遊び慣れた自信家の男のそれだった。

そのあとのことは想像に任せる。ちなみに最後までは致していない。職場なので。職場に監視カメラがなくてよかった。

2020年はお世話になりました。

2021年もよろしくお願いします。