部下の話

退職まであと81日

ワイヤレスイヤホンを家に忘れてきてしまい、通勤の3時間を轟音の中で過ごすことになった。音楽を聴かなくても耳栓代わり付けているものなので、ないと環境音がうるさくて仕方ない。コロナからこっち、常に車内の窓も開いているから、ドアが閉まろうがホームのアナウンスは大きいし、トンネルにはいってさらに反対側の電車とすれ違ったときは、ストレスのメーターが急速に上がる。
自分の使うホームのアナウンスはやたらと長く、「ご利用ありがとうございます」「終日禁煙」「今度の電車は何時何分発何線直通快速何線何行き」「何両編成普通車は何号車から何号車、グリーン車は何号車どこの色の線で待て」「グリーン車に乗りたきゃ特急券を買え」とひっきりなしに爆音を響かせている。いつも最後方の車両に乗る。ホームは島式で先端に行くほど狭くなるので、対面したスピーカーの距離は近くなり、イヤホンなしでは過ごせない。今日初めて確認したのだが、スピーカーの横の間隔があんなに狭いなら、もう少し音量が小さくても充分なんじゃないか。多少耳への負担がマシになる位置を見つけた。左右のスピーカーのちょうど間に立ち、ホームに落ちるギリギリのところに立つ。これが一番静かだった。リスクは大きいけど。

どうでもいい話をしてしまった。このブログ及び自分の日常なんて取るに足らないことなので、内容の濃さなんて求めてはいけない。

部下(30歳男)の話をする。いつも軽口を叩いていて、すぐ一人で小芝居を始める。この人は口を閉じたら死ぬのかな、とよく思う。職場ではムードメーカーでコミュ力も高いので、一目置いていた。多分大学を出てから大学以外で初めて友達になりたいと思った人だ。
「配達早かったですね」「じーちゃん3人ひき逃げしてきたからね」なんていつも言ってるので「今日は弁護士から電話来るから、手空いてたらちょっとそっち出るわ」って言われた時も最初は冗談だと思った。
「何したん？ヤクやってるのバレた？それとも詐欺？」「そうそう。この粉、七味ってことにしてくれませんかねぇって相談してるけど、それはちょっとって言われてる」「まあ、インタビュー求められたら、いつかやると思ってましたって言っとくわ」
そんな軽口を叩いていたけど、やっぱりいつもと様子が違うので、もう少し真面目な口調で何があったのか尋ねてみた。彼は、あとで話しますよと笑って答えた。
今日はノー残業デー(タイムカードを定時に押す日)で、運良く仕事も立て込んでなかったので、終業後に話を聞いてみた。
詳しくは言えないが、私生活が大変なことになっていて、弁護士に頼らざるを得ない状態にあるようだった。1時間くらい身の上話を聞いた。
もともと変な家庭環境で育ったのは知っていた。兄弟は多く、ほとんど血が繋がっておらず、実家を解体して家族が離散したが仲は良く、正月の集まりは彼の2DKの家で行われている。ピアスを開けたら褒められ、タトゥーを入れようとしたらぶん殴られたと言っていた。
現在進行形で何が起きているのかは詳しく言えないが、この人はメンタルが強くて生きるのが上手いなあというのが率直な感想だった。2月に初めて会ってから今日までの発言の数々が、全部繋がった。食事に誘っても断られる理由も分かった。ずいぶん前からまずい状況で、最近になっていよいよどうにもならなくなってきたらしい。何かあれば塞ぎ込む前に然るべき機関に頼ること、手続きを踏むことが大事だ。
27年生きてると、それをもっと早く知っていたらあの頃あんなに悩まなかったのに、みたいなことをたまに思う機会がある。今日は社会勉強になった。
部下はよく今まで平常心でいられたなと思う。メンタルが強すぎる。平常心というか、それを装うのが上手いようだ。職場では冗談ばかり言っているが、プライベートでは一切人と話したくなくなるらしい。ということは、私が仕事を辞めたあと友達になってくれと頼んでも、断られる可能性が高いということだ。やんわりと振られた気分で、少し落ち込んでいる。
他言無用とは言われていないが、あまり公表してない話らしいので、詳細は伏せておく。とりあえず、生きてるにも関わらず父親の戸籍がなくなってた話は、手を叩いて笑った。
なんかもう、幸せになってほしい。
彼のスマホのロック解除番号が４７７１で「死なない」という意味らしいのだけど、今になってその重みをとても感じる。

さて、今日は長く書きすぎたので、明日は超短く終わらせようと思う。